Column no. 07

大塚 あや子


MORRIS&Co.より新たに発売した「ARCHIVE V – MELSETTER COLLECTION」。
このコレクションでは、ウィリアム・モリスを父に持ち、彼女自身も類まれなる才能に恵まれた
メイ・モリスに焦点があてられています。
今回は、雑誌「ミセス」等の連載でもご活躍の刺繍作家 大塚あや子さんの目線から
メイ・モリスの人物像、また刺繍に対する想いを語っていただきました。

MORRIS&Co.より新たに発売した「ARCHIVE V – MELSETTER COLLECTION」。
このコレクションでは、ウィリアム・モリスを父に持ち、彼女自身も類まれなる才能に恵まれた
メイ・モリスに焦点があてられています。
今回は、雑誌「ミセス」等の連載でもご活躍の刺繍作家 大塚あや子さんの目線から
メイ・モリスの人物像、また刺繍に対する想いを語っていただきました。

― MORRIS WORLD(以下M)
まずは、刺繍に携われることになったきっかけを教えてください。
― 大塚先生(以下 大)
母が刺繍をする人だったので、幼少のころから刺繍の道具は常に身近にある存在で。でも刺繍を強要されたことは全くなく、何をしても良かったの。周りに自然に刺繍がある環境だったのがいちばんのきっかけかしら。
― M
それは母親がしていた刺繍の影響を受けたメイ・モリスと似た環境ですね︖
― 大
そうね。メイのように、小さなころから刺繍を見て育った、いろいろなものを見て育った、という経験は大きい気がします。母が刺繍するのを私は見ていて。そして私の好きなようにさせてくれていた、っていうのは大きいわね。だから、それがもし料理だったら今頃料理人になっていたのかも(笑)。
― M
刺繍を職業にしよう、と思われたのは︖
― 大
実は刺繍を職業にしようと思ったことは一度もないの。子供ふたりが大きくなって来た頃、何か自分が打ち込めるものが欲しいな、と思ってスクールに通っていたのね。そこで担当していた先生の代打で出版物に掲載する刺繍のデザインと製作を依頼されたのがはじまり。そこから仕事をいただくようになったんです。
― M
つまり刺繍技術を習得、というよりは、やりながら技術を習得されたわけですね。
― 大
そう。とにかく楽しくやりたくて。その頃の私にしたら、今こんな人生を歩んでいるなんて想像もしていないと思うわ。

― M
ところで大塚先生はスタンプワークをはじめ、白糸刺繍やさまざまな刺繍を手掛けていらっしゃいますね。
― 大
私、気が多くていろいろ、何でもやっちゃうから。
どんな刺繍が好きですか︖ってよく聞かれるけれど、よく考えたらどの刺繍も好きなのよね。ただ単に「刺繍」そのものが好きなんです。
― M
刺繍の図案を考えられるときはどんな時でしょうか︖
― 大
どんな時というか、図案を考える時間がとにかく好き。それは小さい時から変わっていなくて。母が言っていたのは、小さい頃出かけるとその日は一日中女の人の靴やバッグをずっと見ていたな、と思ったら、家に帰ってくるととにかく気になった靴やバッグをずっと描いていたみたい。そのようにもともと絵を描くのが好きだった、っていうのもあるわね。
― M
図案は花や植物が多いんですか︖
― 大
そういうわけではないんです。刺繍で表現できるものに挑戦している、という感じかしら。ただ、季節を感じるものはあるわね。花を見たり、動物を見たり、と周りの何気ないものに興味を示すことが大切だと思っているから、そういうものがインスピレーション源になることは多いわね。

― M
好奇心をもつことが大事ですね。
― 大
よく刺繍がうまくなるにはどうしたらいいですか︖なんて聞かれるけれど、結局は何かを感じられなければ意味がないと思うの。道端の小さな花に気づいて綺麗だな、と思ったり、春の緑と秋の緑が違うことに歩いていて気付けるか。そういうことの積み重ねが私の中に貯金となってあるの。だから刺繍をするときには、その引き出しから取り出しています。歳を重ねた分だけ引き出しも多いのよ。だから私、最近刺繍が上手なの(笑)。
― M
好奇心といえば、メイ・モリスも刺繍の名手と言われるだけ好奇心旺盛、いろいろな経験がインスピレーションの引き出しとなっていたでしょうね。
― 大
彼女自体は育った環境が独特でしたからね。あの時代にしては面白い生き方をした人だな、と思います。刺繍については彼女が唯一自然に身につけていけたものだったのでしょう。それが認められたことで、刺繍が彼女の自信に繋がっていた。男の人と三角関係にあった、というのも自分に自信がなきゃできないでしょ︖(笑)。だから当時にしては珍しく、男の人に依存しないで生きていける女性だったのだと思うわね。「メイ=刺繍」として生きた人と思う。
― M
一生懸命に生きた人だったのでしょうね、メイ・モリスという女性は。さて、この度そのメイに焦点をあてたMORRIS & Co. の新コレクション、「ARCHIVE V / MELSETTER」コレクションが発売となりました。メイを筆頭に、彼女の教え子でもある女性刺繍作家が残した数々の作品からインスピレーションを受けたアイテムが収録されています。この中で大塚先生が好きだな、と思った柄は何でしょう︖
― 大
宿り木と鳥の刺繍が美しい「Seasons by May Embroidery」と朱赤がきれいな「Theodosia」かしら。
自宅の玄関にモリスの刺繍生地を飾っているのだけれど(Artichoke Embroidery が飾られているそう)、これらも素敵ね。「Theodosia」のこの赤色が凄くいいわね。
― M
では、これらをご自宅のインテリアにぜひ。
― 大
そうね、でも私の自宅って実は何にもないの。カーテンもなくて。でもそのうちリフォームしようと思っているから、そのときまでの楽しみにしておくわ。
― M
大塚先生、ありがとうございました。刺繍の図案が日々の暮らしのインスピレーションから生まれているとお聞きし、「高価」というイメージが先行していた刺繍を身近に感じられるようになった気がします。
ひとまず、私も何か刺繍をしてみたくなりました︕

写真左より︓ Theodosia Embroidery 236822, Theodosia 226594, Seasons by May Embroidery 236826

刺繍作家・日本麻紡績協会 理事 / 大塚 あや子

東京・自由が丘にて刺繍教室「Embroidery ECRU」を主宰。
大手企業の広告制作やテレビ出演、雑誌・著作本の出版等、幅広い分野で活躍されている。
www.studio-ecru.com/

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